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食べられるARマーカー

 

 近年,物体に映像を投影して多様な効果を与えるプロジェクションマッピングが注目を集めており,最近ではこの効果を料理の演出に活かしたレストランや結婚式場も登場しており人気を集めている.しかし,従来のプロジェクションマッピングは形状や配置が厳密にわかる建物やスクリーンを前提としており,料理のような形や配置を厳密に決めにくい対象に映像を投影することは難しかった.そのため,対象の形や配置が厳密に決められなくてもよい形の演出を工夫するなど,プロジェクションの内容や手法に強い制約があった.

 一方,当研究室では,食品を素材とした光学素子を研究・開発しており,その一環として寒天を素材とした食べられる再帰性反射材を開発してきている.これまでこの素子を利用して,料理の上に載せて位置を計測するマーカーとして機能することを実証してきた.しかし,従来のマーカーでは画像内での対象の位置のみがわかり,対象の向きや傾きなどの姿勢までは計測できなかった.
 そこで,食べられる再帰性反射材を素材として,三次元的な位置と姿勢をすべて計測できる食べられるARマーカーを開発した.開発したマーカーの写真を図1に示す.対象の位置・姿勢がわかるマーカーとしては,平面に四角い枠に囲まれた図形を描いた物を利用するARマーカーがよく用いられているが,これまでは不可食の素材で作られていた.今回は食べられる再帰性反射材とスライスチョコレートを組み合わせてARマーカーと同様の図形がカメラから観察できるようにした.具体的には正方形状の食べられる再帰性反射材の上に提示したい図形の形に切断したスライスチョコレートを付与した.このスライスチョコレートが光の入射を遮蔽し,結果的に白地に黒い図形を浮かび上がらせて,ARマーカーとしてカメラから観察できるようにしている.カメラから観測した画像を図2に示す.​

 実際にこのマーカーを利用してケーキの姿勢に合わせた動的プロジェクションマッピング実験を行った.この実験の様子を動画と図3とに示す.この実験では,食べられるARマーカーをケーキ表面に設置し,それをマーカーとしてケーキ上に文字の投影を行った.ケーキの位置は再帰性反射材をマーカーとしてカメラで計測されており,その位置・姿勢にあわせて文字の投影をおこなっているため,ケーキを移動・回転させても投影は常にケーキ上の表面に合わせて行われる.テーマパークや結婚披露宴など,高度な演出が期待されているシーンにおいて有用であると考えられる.

 

動画 試作した食べられるARマーカーが光を反射する様子とケーキ脇に設置してケーキの姿勢に合わせて動的にプロジェクションマッピングを行った結果

​図1 試作した食べられるARマーカーの写真

​図2 食べられるARマーカーをカメラから観察した画像

​図3 ケーキ上に付与した食べられるARマーカーによってケーキの位置・姿勢を認識し,表面に沿うように動的に映像を投影した実験の連続写真

参考文献

  • Hiromasa Oku, Takahiro Uji, Yiting Zhang, Kumi Shibahara : Edible fiducial marker made of edible retroreflector, Computers & Graphics, Vol.77, pp.156-165 (2018) [doi:10.1016/j.cag.2018.10.002]

  • 張依婷,奥寛雅 : 食べられる再帰性反射材による食べられるARマーカーの提案と試作,第22回日本バーチャルリアリティ学会大会 (VRSJ2017) (徳島大学常三島キャンパス, 徳島, 2017.9.29)/論文集,3E1-06

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