動的プロジェクションマッピングのための可視光ステルスマーカー
動的物体へのプロジェクションマッピングを違和感なく実現するためには,物体の位置・姿勢と投影像とが整合しなければならない.しかし,物体のテクスチャーは投影像によって更新されるため,姿勢の推定は困難となる.よりロバストな姿勢推定として物体に何らかのマーカーを付与する手法が考えられるが,このマーカーはビジョンによる安定した検出と人間に対する不可視性とを兼ね備えていることが要求される.
これらの要求を満たすものとして,当研究室ではビジョンとプロジェクターを光学的に同軸上,もしくは近傍に設置することを前提とし,特定の散乱特性を持つスクリーン素材の上に再帰性反射材を組み合わせ,再帰性反射材の形状をマーカーとして利用する可視光ステルスマーカーを提案している.
再帰性反射材はその特性上,プロジェクターから投影された光の大部分を光源方向に反射するが,実際にはそれ以外の方向にも光を散乱させる.もしこの散乱光の割合が背景となるスクリーン素材の散乱光の割合とほぼ同一であれば,プロジェクターと異なる視点から観察する人間に対して再帰性反射材はほぼ不可視となる.また,プロジェクターと光学的に同軸,もしくは近傍に設置されたビジョンには強い光が反射するために,投影像のパターンに関わらず再帰性反射材が容易に検出可能となる.
問題はこのような特性を満たす素材の組が存在するのかということになるが,ガラスビーズタイプの再帰性反射材(3M スコッチライト反射布 8965)とPPC用紙(N-やしまR100)の組合せがこの条件を満たすことを実験的に見出した.図1はPPC用紙上に付与した可視光ステルスマーカーにチューリップの映像を投影し,異なる角度から撮影した写真である.図1より,確かに再帰性反射材は光源方向へ多くの光を返し,約20度以上になるとPPC用紙とほぼ同様の結果となることがわかる.
図2は,提案した可視光ステルスマーカーが実際の動的プロジェクションマッピングにおいて有効であることを実証するために,るみぺんを使用した動的プロジェクションマッピングを行ったものである.実験の結果,対象である二枚の長方形状スクリーンの位置・姿勢の変化が映像に反映できていることから,確かにビジョンからはマーカーとして認識されるとともに周囲から見ている人間にはマーカーがほぼ不可視であることがわかり,提案手法の有効性が実証できた.
動画 可視光ステルスマーカーによって対象の位置・姿勢を計測し,対象に合わせて動的な投影を行った実験の様子
図1 可視光ステルスマーカーにチューリップの画像を投影した結果.20度を超えたところからほぼマーカーが不可視となることがわかる.
図2 二枚の直方形状スクリーンに可視光ステルスマーカーを付与し,マーカーによる姿勢推定結果に基づいて映像を動的に投影した結果.スクリーンの動きに合わせて投影像を制御できていることがわかる.
参考文献
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川口陽平,奥寛雅 : 動的プロジェクションマッピングのための再帰性反射マーカー,第20回日本バーチャルリアリティ学会大会 (VRSJ2015)(芝浦工業大学豊洲キャンパス,東京,2015.9.10)/論文集,pp.234-235