2面投影:小児看護におけるディストラクションの実践
近年,VRやプロジェクションマッピングの没入型映像体験が注目を集めており,教育,医療,エンターテインメントなど,さまざまな分野での応用が進められている.小児看護の領域においても,治療や処置に伴う不安や緊張を軽減する手法として,VRを用いた気晴らし(ディストラクション)が有効であることが報告されている.しかし,従来のVRシステムの多くはヘッドマウントディスプレイ(HMD)の装着が前提であり,装着による身体的負担や表情・視線の遮断に伴い,他者とのコミュニケーションが困難であった.また,大型投影システムは高い没入感を得られるものの,設置には大規模な設備と高いコストが必要とされ,医療や教育現場の限られた空間での導入は容易ではない.
当研究室では,これらの課題に対して,より手軽に没入感と共有体験を両立できる2面投影システムを提案している.本システムは,2台のプロジェクターを用いて壁面と床面の2つのスクリーンにホモグラフィ変換を適用した映像を投影することで影の干渉を最小化し,病院や施設の限られた空間にも柔軟に対応できる.これらの環境により,体験者はHMDを使用せずに没入感を得られ,医療を受ける子どもや身体的制約のある対象には安全な利用を提供することができる.2面投影について,動画では概要説明を,図1にシステム構成を,図2に体験者の様子を示す.
健常な成人を対象に,2面投影と1面投影の比較実験を行い,唾液α-アミラーゼ活性を用いてストレス反応を評価したところ,1面投影に比べて2面投影のほうが有意にストレスを軽減することが確認された.さらに,医療的ケア児を対象とした2面投影前後の比較実験では,KOKOROスケールを用いた心理的評価において,投影後にストレスが有意に低下した.これらの結果から,2面投影による視覚刺激が小児看護におけるディストラクション効果をもたらす可能性が示唆された.
2面投影システムは,大型設備を導入しにくい病室や施設においても実装可能な低コストで柔軟な没入型投影技術である.小児看護の現場において,医療を受ける子どもとその家族が,他者と対面しながら同じ映像を同じ空間で共有できることから,2面投影を用いたディストラクションの導入による心理的ケアへの応用が期待される.今後は,映像コンテンツの最適化とリアルタイムな社会的交流の促進に向けた検証を進め,医療・教育・福祉分野における実装と有効性の評価を目指す.
★本研究は,荻原弘幸先生(旭川医科大学)との共同研究です.
動画 2面投影を医療的ケア児のディストラクションに適用した様子

図1 2面投影システムの構成

図2 海の砂浜を2面投影で体験している医療的ケア児の様子
参考文献
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Hiroyuki Ogihara, Yuki Funato, Hiromasa Oku: Proposal for a Distraction Technique Using Two-Screen Projection for Stress Relief in Children with Medical Complexity, IEEE Access, Vol.11, pp.105749-105760 (2023) [doi:10.1109/ACCESS.2023.3316226]
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Hiroyuki Ogihara: Development and validation of the Distracting Ingenuity Promotion Scale for paediatric nurses to support the psychological outcomes of paediatric patients and their families: A survey‐based cross‐sectional cohort study, Nursing Open, Vol. 9, No. 3, pp. 1653-1666 (2022) [doi:10.1002/nop2.1190]
